山とコード

「自然」と「人工」がベストに混ざりあった生活を探るブログ。

一筋縄じゃないよ、人間だもの。 / 『スリー・ビルボード』感想

チープな感想しかでてこないのだが、

人間って奥深いなぁ・・!

と、まぁこれに尽きる。

 

人間がもつ執念、偏見、弱さやズルさ。

そして、良心や成長する可能性を、

登場人物ひとりひとりの「表情」と「行動」から感じ取れる映画。 

そして、人間性について思いを巡らせ、誰かと話し合いたくなる映画。

 

先の読めない展開も面白いのだが、役者陣の演技がとにかく魅力的。

表情で感情を表現することは、役者の基本的な仕事だろうけど、

表情ひとつで登場人物の隠れた性格がわかるのは、すごいことだと思う。

出演者も役者冥利につきる仕事だったことだろう。

 

以下、ネタバレありの感想。

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■良かった点

①ミルドレッドの時折にじみでる人間味

犯人を捕まえるという目的のために、強固な意志で動く主人公ミルドレッド。

そんな彼女が、はじめていたわりの表情をみせるのが、

癌に侵された警察署長がせき込み、彼女の顔に少し血しぶきをかけてしまうシーン。

血が顔にかかるというのは、かなりきついことだと思うが、

そのときミルドレッドは、

相手を思いやる気持ちが滲みでてしまったような表情をする。

全面的に心配するような顔でないところがいいのだ。困惑もあるだろうし。

 

思い返せば、

署長がミルドレッドに癌で余命が少ないことを告白するシーンでも、

「そんなことはみんな知ってるわ。だから死なれる前にやるの。」という、

冷徹な発言をするわけだが、

その発言をするときは、彼女は署長の顔を見ていなかった気がする。

(記憶違いかもしれないが..)

つまり、固い意志を貫くための彼女は優しさを隠しているのだろう、と感じるのだ。

 

彼女の人間性が分かるシーンとしては、

冒頭、広告会社でひっくり返ってしまいもがく虫を助けてあげる箇所がある。

ここは、ミルドレッドのやさしさを伝えるシーンとしては僕の心には響かなかった。

(広告会社を立て直すという意味でも込めてるのかな?)

話はそれるが、

虫のでてくるシーンで真っ先に思い出すのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』。

ニュークスが、指先を歩く小さい甲虫を、

興味深そうにみていたかと思うと、最後にパクッと食べてしまうシーン。

「あ、自分とはまったく違う世界に生きてる・・」と思いしらされる名シーンだった。

 

ミルドレッドの話に戻ろう。

警察署に火炎瓶を投げる前のシーン。

人がいないか確かめるため慎重に2回電話をかけるミルドレッド。

彼女の人柄がでていて好きな人も多いと思うが、

僕は犯人候補だった男に脅されたときの対応も、彼女の人柄がよくでていると思う。

若干の声の震えから、ミルドレッドが恐怖を感じていることが伝わってくる。

だけど、彼女はひるまず踏みとどまるのだ。あそこはかっこいい。

 

②署長の奥さんの苦悩

それに続く、署長の奥さんがミルドレッドの店にくるシーンも感情移入した。

最高の1日の終わりに、夫が自殺をするという最悪な経験をしている彼女。

全く予期せぬ唐突な別れ。

 

苦しく、混乱するなかで、娘2人を育てていかねばならない責任を抱えながら、

夫が自殺した要因かもしれないミルドレッドに手紙を渡しにいく。。 

手紙の内容は分からない。夫はミルドレッドを恨んでいたのか、そうではないのか。

自分自身は、怒りをぶつけていいのかどうなのか。

 

しかし、奥さんは怒りをぶつけずに車に戻る。

そういうときに怒りをぶつける人間もいるだろう。しかし彼女はそうはしない。 

だからといって、彼女がずっとそうであるとは分からない。

やり場のない怒りが、数年、十数年という年月のなかで静かに醸成され、

ある日、怒りの矛先がミルドレッドに向かうこともあるかもしれない。

 

それこそ、やり場のない感情の矛先として、

ミルドレッドとディクソンが、真犯人ではないが

レイプ犯の可能性がある男を殺す「かも」しれない決断をしたように。

 

※そういえば署長が奥さんに、

ミルドレッドの看板費用を出したことを伝えなかったのはなぜだろう?

彼女の感情的負担を少しでも減らしてあげればよいのにとも思うが。

警察として正しいことをやれと言われたディクソンが、

広告会社のレッドを窓から落とすという最悪の勘違いをするように、

奥さんも勘違いしてしまうかもれないのではないか?

 

③ディクソンの成長

第2の主人公というか、この物語はディクソンの成長ストーリーともいえる。

ザコンで短気で、ちょっとオツムが弱くて差別主義者のディクソンは、

署長が自殺したことを聞きショックで気を失ってしまうイイ奴でもある。

そんな彼が、署長の遺言を守り、

酒場で、たばこを吸うふりをして犯人らしき男の車のナンバーを見に行くシーン。

なんて冷静なんだ!すごい成長だよディクソン!

くそ野郎であった過去は変えられないけど、頑張れディクソン!と熱くなった。

 

それだけに、今までとは別人のようにしっかりと証拠を確保し、

追いつめたと思った犯人が、クロでないと分かったときの彼の落胆はとてもつらい。

何をやってもダメなんだと、それこそショットガンで頭をぶち抜きたくなるだろう。

(今このテキストを書いていても思い出して泣きそうになってくる)

 

報告のためにミルドレッドに電話をするディクソン。

そこから、正しい判断ではないかもしれないが新たな目的を見つけるディクソン。

この現実世界では、そのまま人を殺してしまったディクソンもいれば、

殺さずに何かをつかんだディクソンもいるのだろう。

これは俺だって思うアメリカ南部の人は結構いるのかもしれない。

 

④コメディーとして楽しい

最後のポイントとして、これはすごく大事だと思う。

シリアスな話なのにギャグが面白い。

署長の遺言を読みふけり、迫りくる炎にまったく気づかないディクソン。

恐ろしいことを思い浮かぶんだけど、

それをかわいい顔付きスリッパ同士の対話劇にしてしまうミルドレッド。

(確かにそういうことってあるよね!)

19歳の女の子を抱いても、娘は帰ってこないわよと言われたときの元旦那の間。

 

緩急のテンポにもなっているし、人生は悲喜劇がごじゃまぜだから、

コメディが入ることで妙なリアリティが感じられる。

 

その他の良かった点

・署長が、死を前にしているという事実のやるせなさせに顔をゆがませるシーン。

・バーで、ディクソンを「クソ野郎がいるわ」とさげすむミルドレッドの店の女の子。

 └これは完全に僕だと思った。自分がやってしまいそうな行動。

  確かにディクソンがやってきたことはクソ野郎なわけだが、

  成長しているディクソンを知っているだけに心苦しさがあった。

・頭をぶちぬくぞとディクソンに罵られて喜ぶ母親。

 南部のタフな家庭の母親は、あれがうれしいのだろうか・・??

 

最後に、エンディングの後を考えてみる。

生前、娘に対して言った取り返しのつかない言葉にミルドレッドは縛られている。

強い後悔が執念をうんでいるわけだが、

もしレイプ犯かもしれない男を殺したとして、彼女の気は晴れるのだろうか。

根本的な問題の解決にはならないし、

広告を出すこととは比較にならない影響を周囲の人間に与える。

(もちろんミルドレッドも自覚していて子供の顔を見つめるわけだが。)

 

おそらく、ミルドレッドとディクソンは銃をもって彼の目の前まで行くだろう。

どのような会話をするだろうか。

「あなたはレイプをしたことがあるの?」と直接的に尋ねるだろうか。

男は、2人の神経を逆なでするような煽り文句をを言うかもしれない。

ミルドレッドではなく、死に場所を探しているディクソンが撃ち殺すかもしれない。

 

あるいは、自宅に行っても男は留守かもしれない。

近くのバーで男の帰りを待つが、男は帰ってこない。

2人は、それぞれに安堵したような表情を一瞬だけうかべる。

そして、真犯人を探すため、またエビングに戻るかもしれない。

 

ながながと書いてきたが、

人間の行動というのは、その時々の環境や状況に合わせて、

価値観や性格の一部分があらわれるだけなのかもしれないなというのが感想。

一筋縄ではないよね。人間って。

 

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今年の映画暫定ランキング

スリー・ビルボード

ブレードランナー2049

③バーフバリ (2本セット)

④パターソン

 

ブレードランナーとバーフバリは僅差だけど、

ブレードランナーの主人公Kと「恋愛プログラム」のラブシーンが大好きなので2位。

三角締めさんは、あそこが長すぎるとしていたが、

僕はVR(MR)を志す人間として体が震えた。

DVDを見る機会があったら、あらためて感想をまとめる予定。

 

※鑑賞時の記録として

小男をバカにする劇中人物のギャグを、大声で笑ってる男性客がいた。

それってあんたの人間性への信頼を著しく低下させる行為だけど大丈夫か?と思った。