山とコード

「自然」と「人工」がベストに混ざりあった生活を探るブログ。

未来に起きることが分かっても、同じ選択をする気持ち / 『メッセージ』感想

うろ覚えだが、ジョジョのストーン・オーシャンのプッチ神父は、全世界を早送りして1週させることで、すべての人が未来を予測できる世界を目指した。未来があらかじめ分かることで、すべての人々が「覚悟をもつ」ようになるというのが彼の説だったと思うが、『メッセージ』の話の核心は、このプッチ神父が行おうとしたことと似ているのではないだろうか。

 

主人公の女性が、言語学の能力を生かして異星人の言葉を理解する。この異星人たちは「時間を超越」した存在だ。そんな彼らの言語を学ぶことで、主人公の思考(というか知覚)に決定的な変化が起こる。思考は言語の制約のなかでしか行えないという説があるけれど、言語を学ぶことで主人公の思考が拡張されたのだ。

 

具体的には、時間は過去から未来へと一方向に流れるものではなく、同時に併存するものになる。『ウォッチメン』のDr.マンハッタン状態。過去も今も未来もすべてが同時に進行する。だから未来に生まれる娘のことや、その娘が不治の病でなくなることなどが、まるで過去の記憶のように脳裏によみがえってくる。

 

かなり頭がおかしくなりそうなシチュエーションだし、実際Dr.マンハッタンは人間離れしていったわけだが、主人公は見えている未来に反抗することなく現在を受け入れる。これはプッチ神父の言う覚悟なのではないだろうか。悲しい結末がくることが分かっていても、これから娘と過ごす楽しい日々の価値は変わることはない。むしろ結末が分かっているからこそ一瞬一瞬の輝きが増す・・。

 

未来は分からないからこそ素晴らしいというよくあるエンディングとは一線を画するエンディングではあると思う。だけど、正直ピンとこないといえばピンとこない。未来に起こることが分かっていたら、よりマシになる選択をしようとするはずだ。そしたら、未来も変わっていきそうだし。

『メッセージ』は映像も美しく良い映画なんだけど、現在と未来が同時平行というのは考えれば考えるほど不思議なテーマだ。